冬を届ける初時雨~過ぎ行く晩秋に祖母に送る手紙
ふくよかな祖母は暑がりです。
そのため、最近は夏の盛りになると「もうダメかもしれない。」と、そうめんをモリモリ食べながら凹んでいるのですが、涼しくなると元気です。
以前は紅葉を見に、京都だ奈良だと毎週のように出かけていたのですが、足腰が弱くなってからは、それもほとんどなくなりました。
駅からマンションまでの銀杏並木では、物足りないだろうな。
そう思いながら、雨の日でも季節を感じられるような手紙を書きました。
おうちにいても、季節はめぐるから。
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霜降の短いメッセージ
おばあちゃん
銀杏の葉が、ようやく黄色く色づきました。
それなのに、待ち構えていたかのような初時雨。
今年は本当に雨ばかり。
それでも、この雨は冬支度の合図なんだそうです。
おうちでもしっかり暖かくして過ごして下さいね。
ハナコ
冬の合図の初時雨
おばあちゃん
ようやく秋を迎えた銀杏の葉が、冷たい初時雨に揺れています。
秋晴れの、カラリとした風に吹かれているはずだったのに。
猛暑の後、やっと迎えたさわやかな季節の雨は切ないね。
今年は紅葉も、きれいな時期は短かくなるかもしれないな。
そんなことを考えながら、遠い嵐山を思い出していました。
おばあちゃんと見た清水寺の庭も、もう紅葉が始まったかな。
今年こそ行きたいと毎年思いながら、なんだかんだ足止めをされるものです。
南禅寺を想いながら、急に寒くなった夜は、湯豆腐で温まりながら外の雨を眺めています。
京都に行けないだとか、奈良は遠いだとか言いつつも。
目の前のお鍋には幸せな冬が湯気を立てていて、大根おろしの初時雨。
十分幸せだな、と思っています。
恨めしい雨ではあるけれど、冬支度の合図でもあるそうです。
おうちにいる間に、寒さに備えておきなさいってことだね。
雨が上がったら、気温が急に下がります。
毛布や上着を準備して、風邪引かないようにしてね。
また手紙を書きます。
元気でいてね。
ハナコ
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「いつか」を後悔するかもしれない
祖母は高齢で、年々弱くなっています。
桜を見に行こう。
紅葉を見に行こう。
季節ごとに手紙を書いては、そのたびに果たせない約束が重なります。
遠方に住んでいること。
子どもたちの予定で、いつも多忙であること。
言い訳にすらならない理由は、いくつも生まれます。
私は近い将来、後悔するかもしれません。
できない約束をするのではなかったと。
永遠に来ない「いつか」など、口にするのではなかったと。
それでも1年に数回しか会うことが叶わなくなり、手紙やメールでしか連絡ができなくなった今。
私にできることは、「いつか」の思い出話や、「約束」の源である遠い日の記憶を何度も取り出して、祖母に季節と笑顔を届けることです。
足元の悪い場所へ、連れ出すことはもうできません。
けれどいつか、2人で歩いた記憶の道へは何度だって行ける。
だから私は、今年もいつかの約束を重ねます。
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