雲海を割る黄葉に冬支度~母に送る立冬の手紙~
朝起きると窓の外は霧で真っ白。
視界からの寒さにあわててガウンをはおり、朝の支度を始めます。
朝食がすむ頃になると、ハナコの住む山の家からは、赤や黄色に色づいた山の木々が、雲海から顔を出し始めます。
秋から冬へ、季節のうつろいを告げる濃霧。
きっと実家では、季節ごとに玄関飾りをまめにととのえる母が、はりきって冬への模様替えをしているはずです。
新作のオーナメント、長年大切にしてきた友人の海外みやげ、ハナコが子供の頃にプレゼントした手作りのかざり。
到来する季節はいつも、ワクワクしたり懐かしかったり、楽しい気持ちで満たされていました。
都会に住む母にはなくて、ハナコにあるのは濃霧と雲海と壮大な山の景色。
それだけあれば届きます。
ここでの季節の変化、そしていつも幸せに過ごしていること。
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濃霧は秋晴れのしるし、山は今日も季節を重ねます。
お母さん
朝起きた時、窓の外が真っ白な日は絶好の洗濯日和。
本当よ。
外に出れば髪が濡れるほどの濃霧は、山の紅葉を濡らし、雲海へと姿を変えます。
雲が山の下に消える頃には、秋晴れが約束されているんです。
ここで生活するまでは全く知らなかったけど、湿度の高さにがっかりしていたら、あっという間に晴れたことが何度もありました。
最近は空も冬模様、どんよりした雲が厚くかかることも増えてきました。
だからよけいに、霧の向こうに赤や黄色に色づいた山が見えた時は、約束された秋の好日に、心が晴れる気がします。
お母さんは今年も玄関の飾り、冬バージョンに変えた?
すぐにクリスマスになるのにって言われても、12月まではまだ違うと、こまめに変えるあの飾り。
壁にかかったりんごのリースや、絵本から出てきたみたいな動物のオーナメント。
どこかで見たことあると思ったら、私が幼稚園の頃に書いた絵。
小さな子供もいないのに、どうしてこんなものを一生懸命飾るんだろうと思っていたけれど、今は自分の家の玄関を開けるたびにあの飾りを思い出します。
家に帰って来た安心感とあたたかさ。
お母さんが作るごはんの匂いと、今も記憶から離れないしあわせの景色。
きっと私が遠く離れた場所で暮らすことになっても、いつまでも同じ気持ちでいられるようにと、魔法をかけ続けてくれていたんだなぁと思っています。
残念ながらわが家の玄関は散らかり放題。
「あそこどうにかしなさい。」と電話のたびに言われながら、相変わらず手つかずでいます。
しあわせの冬支度はどこ行った?
最近はそんなことを考える余裕も出て来たので、今年の年末はがんばろうかな。
お母さんの飾りを思い出して、すてきな冬の玄関を演出してみるつもりです。
「年末になる前にやりなさい。」って言われそうだなぁ。
衣替えしたらすっかり仕事は終わった気分でいたけど、甘かったかもしれない。
立冬過ぎたら私も幼い日の記憶をたどり、冷えて帰って来る大切な人たちを暖めようと思います。
お母さんの飾り、今年のテーマは何?
亀の甲よりなんとやら、長年かけて少しずつ集めた季節のコレクションにはおよばないけど、紅葉も黄葉もここではオーナメントのひとつ。
窓から見える秋から冬の景色にも力を借りて、やってくる季節を楽しもうと思います。
朝晩の寒さは霧が証明するところ。
忙しくても、体を大切にして下さい。
あの飾りが見たいから、近々一度帰るつもりです。
リクエストはさんまかカキフライ!
「ごちゃごちゃ言ってないで片付けなさい。」って声が聞こえました。
またね!
ハナコ
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おけいこの秋、成果披露の冬
何かを習うことが大好きで、短期でも長期でも、どんどん新しいことに挑戦する母。
都会に住んでいるので、いろんな種類のカルチャースクールが充実していることも、始めやすい理由のようです。
毎月変わる家のあちこちに飾られているリースは、一時期習っていたおけいこの作品。
季節ごとの食材をふんだんにつかったおもてなし料理も、執念の予約取りで確保した一流ホテルのお料理教室のたまもの。
思い返せばハナコが幼い頃から、その時々にブームを迎えたおけいこに取り組んでは、かなりの腕を上げていました。
手先を使うことが好きな上に、何かを完成させることや、やり遂げることに生きがいを感じるような人なので、性に合っていたようです。
飛びついてはすぐ飽きる父とは対照的に、きちんと習得するまではあきらめない姿勢は、尊敬をとおり越して恐ろしいことさえあります。
それでもそのおかげで、ハナコは「お母さんが作ったなんだか素敵なもの」に囲まれて育ちました。
人間には向き不向きがあるので、同じことをやってもダメだろう、という諦観がハナコにはすでにあります。
母が作るものの完成度があまりにも高かったことが、ハナコを悟りの境地に導いたと思っています。
それならハナコなりのやり方で。
この環境をいっぱいに活かした方法で、季節を感じたいと思います。
手っ取り早く、ストーブ点火
手っ取り早く、季節の香りで部屋をいっぱいにできるのが灯油ストーブ。
灯油のにおいが、ではありません。
ストーブの上で煮込む料理の数々。
立ちのぼる湯気の柔らかさ。
都会のマンションではなかなか実現しなかった、外と直結している一軒家だからこそ迎えることができた熱源。
今年もこのしあわせに包まれて、ハナコは自分なりの冬支度を進めます。 玄関は片づけようと思ってますけど…ね。
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