満月に木星よりそう春の夜~友人に送る真夜中のメール~
そろそろ寝ようかな、と思って部屋の電気を消したら、窓が光っていました。
そういえば今日は満月。
見ておかなくちゃとカーテンを開けたら、真っ白な光が春の夜空をてらしていました。
空には、雲がひとつもないことがはっきりわかるほどの明るい夜。
空気はとても冷たいのに、夜空でさえ春にそなえているのです。
ずっと以前、ハナコはこんな夜によくジミニーさんにメールを送りました。
「今、窓から見える満月がとても明るくて…。」と、それだけを伝えるために。
まだ幼かった子どもたちが起きないようにと、暗くした部屋がおどろくほど明るかった夜。
一日のうち、唯一持てた自分の時間を、大切な友達と共有していました。
LINEのように、ジミニーさんからのお返事をすぐにでもと、待っていたわけではありません。
ただ一方的に手紙を書いているだけだったけれど、それでもいつも一緒に満月を見ているような気持ちでいました。
そして明日もがんばれそうな、そんな気分になれました。
だから今でも満月を見たらジミニーさんに手紙を書きたくなるのです。
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今夜は満月
ジミニーさん
今夜は満月です。
そろそろ寝ようかと電気消したら、あまりにも窓が明るくてカーテンをあけました。
そういえば、春の満月ってこんなふうだったな。
まぶしいほどの光が、雲ひとつない夜空をてらすのを見ながら思い出していました。
まだまだ子どもたちが幼かった、あの頃のこと。
とは言っても、幼い頃の子どもたちを思い出したわけではありません。
今でもあの頃に戻りたいかと聞かれたら、絶対いやだと即答するほどハードだった日々。
あの頃私はよく、月の出るこんな時間にジミニーさんに手紙を書いていました。
一日がやっと終わって、なんとか持てた自分の時間。
私は誰でもない、ひとりの人間としてジミニーさんへの言葉を探していました。
メールをよんだ時、楽しい気持ちや満たされた気持ちになってほしい。
そうは思ったものの何を話そうかと、見上げた夜空に輝く月のことをよく話しました。
そんな時、満月だったらそれだけで特別な日であるような気がして、とてもいいものを見つけたような気がしました。
だから今でも満月の夜は、私にとって特別です。
おまけに今日はとってもきれいに輝く星がひとつ、満月のそばで光っています。
あれはなんだろう?
そう思いながら調べたら、木星でした。
金星とはちがう、落ちついた深い光。
春を待つ夜にふさわしい、重厚な雰囲気のある星です。
それを見ながら、私には満月が「そろそろあなたにも、今とは違う光るなにかが必要なのでは?」と言っているように思えました。
奥さんでも、お母さんでもない言葉を探していたあの頃、月はシンプルに輝いていました。
でも今日は、あんなきれいな宝石で飾ってる。
もしかしたら私も、自分を飾る時期を迎えたのかもしれません。
昔読んだ森瑤子さんの本に、ブランド品や宝石は、年齢を重ねた女性にこそ必要なのだと書いてありました。
ハリやツヤを失った肌の光を補うために。
経験や思いをかさね、満たされた内面とのバランスをとるために。
まだ高校生くらいだった私は、自分もこんなふうに年をとれたらと、あこがれいっぱいの思いで読んだ記憶があります。
でも考えてみたら、私はもう、あの頃読んだエッセイの主人公の年齢に近づきつつあるのです。
飾るにふさわしい内面があるかしら?
と、考えました。
ジミニーさんのようにバリバリとお仕事をすることも、趣味に夢中になることもなくここまで来ました。
でもゼロじゃない。
満月を見上げながら書き続けた手紙といっしょに、育ったものがあるような気がしています。
やっぱり満月は特別。
ずっとそうしてきたように、明日も頑張ろうと思います。
満月じゃなくてもまたお手紙書きますね。
ハナコ
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思い出の満月
月の満ち欠けが人の心に影響するからなのか、満月は話題になりやすく、夕方つけていたテレビの天気予報で、「今夜は満月」と時々耳にします。
その時はなんとなく、ふぅん…と流してしまうのですが、実際月が顔を出すと、その圧倒的な力に「ああそうだ、今日は満月だった。」と、吸いよせられるような気持ちになるのです。
ほとんど毎日といっていいほどジミニーさんに手紙を書いていたあの頃は特に、よくそんな状態になりました。
子育ての疲れで、もう自分の言葉なんて出てこないんじゃないかと思うほど、空っぽになった夜。
満月は不思議な力で私を満たしてくれました。
「月がきれいだから、手紙を書きたくなりました。」
最初の言葉を文字にしたら、後は自然につづきが書けました。
何もない一日だと思っていたけど、意外といろいろあったな。
今日もそこそこがんばったな。
自分を評価したりほめたりしながら、その日のことを思い出しました。
肉体的な疲労は、頭を使うとバランスがとれるのでしょうか。
ぐったりしていた体が心地よい疲労に変わり、今度こそ何もかも空っぽになって、その後はぐっすり眠りました。
昨日見た木星は、きっと満月からのメッセージです。
自分を飾るものをみがきなさい、と。
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